若手木地師に聞く、山中漆器のものづくり~泉谷郁美さん~

~工房静寛 木地師・泉谷郁美さんインタビュー~
こんにちは。ご覧いただきありがとうございます。
これまでのブログでは、漆器の基礎知識や山中漆器の魅力、職人の技術についてQ&A形式でご紹介してきました。
今回は少し視点を変えて、実際に山中漆器を作る職人さんにお話を伺う「職人インタビュー企画」をお届けします。
漆器は完成した製品を見る機会はあっても、その裏側にある職人の仕事や想いを知る機会は意外と多くありません。
そこで今回は、守田漆器の工房静寛で木地師として活躍されている 泉谷郁美(いずたに ふみ)さん にお話を伺いました。
木地師になったきっかけから、日々の仕事のこと、山中漆器への想い、そして今後の目標まで、たっぷりと語っていただきました。

木地師・泉谷郁美さんプロフィール
守田漆器 工房静寛所属の木地師。
木地専門の学校で学んだ後、木地師のもとで修行を重ね、現在は山中漆器の木地づくりに携わる。木地師としての経験は10年目。
工房静寛では、お椀やカップなどの木地挽きを担当するほか、木地挽き体験などのワークショップにも参加している。

「作る側の仕事がしたい」――木地師を目指したきっかけ
M.Y:
「まず最初に、この木地師のお仕事を始めて何年目になりますか?」
泉谷さん:
「会社で仕事としてさせてもらっているのは3年ほどですが、学校と修行期間を合わせると10年目になります。」
M.Y:
「最初から木地師を目指されていたんですか?」
泉谷さん:
「そうですね。最初からろくろの仕事に携わりたいと思っていました。」
現在では毎日ろくろに向かう泉谷さんですが、この仕事を目指すようになったきっかけは意外にも販売の仕事だったそうです。
M.Y:
「この仕事に携わろうと思ったきっかけを教えてください。」
泉谷さん:
「もともと大阪で木製家具を扱う会社で販売や営業をしていました。木のものが好きだったんです。」
販売を続ける中で、次第に「自分も作る側の仕事がしたい」と考えるようになったといいます。
泉谷さん:
「家具も好きでしたが、器の方が生活の中で身近な存在でした。それで器づくりを学べる場所を探して、山中に来ました。」
日々使う器への興味が、現在の木地師という仕事につながっていったそうです。

オープンファクトリーで働くということ
工房静寛は、お客様が職人の作業風景を見学できるオープンファクトリー形式の工房です。
M.Y:
「お客様に見られながら作業する環境ですが、何か意識されていることはありますか?」
泉谷さん:
「最初はすごく緊張しましたね。」
そう笑いながら話してくださいました。
泉谷さん:
「木地の仕事は他の工程に比べて動きがあるので、お客様も立ち止まって見てくださることが多いです。特別に何かを意識しているわけではないですが、刃物は毎日お店が開く前に整えて、スムーズに使えるようにしています。」
見られる環境だからこそ、普段以上に道具の準備や作業の丁寧さを大切にしているそうです。

明るく開放的な工房で
M.Y:
「以前の工房と比べて、この環境はいかがですか?」
泉谷さん:
「前の親方の工房はもっと狭くて暗い感じでした(笑)。ここは明るくて開放的ですし、設備も綺麗ですね。」
ろくろも複数台設置されており、用途に応じて使い分けながら作業できるため、非常に恵まれた環境だと感じているそうです。

木地師の一日は“ひたすら削る”
M.Y:
「普段はどのような流れで仕事をされているのでしょうか?」
泉谷さん:
「朝来たらまず掃除をして、刃物の状態を確認します。その日作るものに必要な刃物を揃えて、あとはひたすら削ります。」
例えば100個のお椀を作る場合は、まず全ての外側を削り、その後に全ての内側を削るという流れで進めるそうです。
泉谷さん:
「朝から夕方まで同じ作業を繰り返しています。」
シンプルな作業に見えますが、その中には高い集中力と根気が求められます。

木は季節によって変化する
M.Y:
「気温や湿度による影響はありますか?」
泉谷さん:
「塗りほどではありませんが、木は乾燥に弱いですね。」
特に冬場は注意が必要だそうです。
泉谷さん:
「エアコンの暖かい風が直接当たると、木が割れてしまうことがあります。なので冬は極力エアコンを使わないようにしています。」
自然素材ならではの難しさを感じるお話でした。

木地師は刃物も自分で作る
仕事の中で特に難しいものについて伺いました。
泉谷さん:
「背の高い器ですね。外側はいいんですが、内側を削る時に奥まで刃物を入れないといけないので難しいです。」
そこで驚いたのは、木地師は器を削るだけでなく、使用する刃物の多くも自ら作るということでした。

泉谷さん:
「鉄の棒をバーナーで熱して曲げて、自分で刃物を作ります。」
実際に、お椀やカップなど日常的によく作る器に使う刃物も、自分の作業に合わせて作ったり調整したりしながら使っています。
さらに、背の高い器や深い器など特殊な形状を削る際には、その器に合わせた専用の刃物を新たに作ることもあるそうです。

泉谷さん:
「どうしたら奥まで届くかを考えながら、自分で刃物を作るんです。」
同じ木地師でも、使う刃物の形や角度にはそれぞれの工夫やこだわりがあります。器を削る技術だけでなく、道具そのものを理解し、自ら作り出す技術も木地師の重要な仕事の一つなのだと感じました。

技術を磨き続ける面白さ
M.Y:
「一人で作業する時間も多いと思いますが、モチベーションはどのように保っていますか?」
泉谷さん:
「やっぱり技術の向上ですね。」
木は一つひとつ性質が違い、同じように削っても反応が変わります。
泉谷さん:
「毎日小さな発見があります。『こういう時はこうすればいいんだ』というのが面白いですね。」
修行時代に親方から教わったことも、実際に一人で仕事をするようになって初めて意味が分かることがあるそうです。

見えない工程が支える山中漆器の品質
M.Y:
「木地づくりで特に意識していることはありますか?」
泉谷さん:
「やはり乾燥ですね。」
山中漆器の特徴である薄挽きを実現するためには、木をしっかり乾燥させることが欠かせません。
泉谷さん:
「一度に仕上げるのではなく、工程ごとに乾燥させながら進めます。急ぐと後で歪みが出てしまうんです。」
後工程の塗りや、実際に使う人のことまで考えながら木地を仕上げているそうです。

仕上がりを左右する細かな部分
M.Y:
「仕上がりの良し悪しは、どこで差が出るのでしょうか?」
泉谷さん:
「お椀の底にある『へそ』ですね。」
ろくろで削ると中心部分にわずかな凹凸が残ることがあります。
泉谷さん:
「そこが綺麗になっていないと、塗りの工程に行った時に直せなくなるので。」
目立たない部分こそ丁寧に仕上げることが大切なのだそうです。

木は一つひとつ違う
M.Y:
「木の種類による違いはありますか?」
泉谷さん:
「ありますね。欅は木目が綺麗ですが、その分波打ちやすいです。」
一方で桜は比較的素直に削れるものの、個体差が大きいそうです。
泉谷さん:
「同じ桜でも硬いものもありますし、『やんちゃな木』もあります(笑)」
自然素材を扱う仕事ならではの表現が印象的でした。

ワークショップだからこそ得られるもの
M.Y:
「ワークショップについてはどう感じていますか?」
泉谷さん:
「お客様の反応が直接見られるのが楽しいですね。」
普段は一人で黙々と作業することが多いため、体験を通じて交流できる機会は貴重だそうです。
一方で、人に教える難しさもあるといいます。
泉谷さん:
「自分にとって当たり前になっている感覚を言葉にするのが難しいです。」
教えることが、自分自身の理解を深めるきっかけにもなっているそうです。

おすすめの商品
M.Y:
「ご自身のおすすめ商品はありますか?」
泉谷さん:
「ゆうカップや花カップですね。」
実際に使ったお客様から、
「口当たりが良い」
「木の温もりを感じる」
という感想を聞くと嬉しくなるそうです。

欅2.5ゆうカップ
 

欅 花カップ 大

若手職人として感じる課題
M.Y:
「この業界に入って感じたギャップはありますか?」
泉谷さん:
「思ったより若い人が少ないなと感じました。」
さらに職人だけでなく、ろくろや機械を維持する人材も不足しているそうです。
伝統技術だけでなく、それを支える環境づくりも今後の課題だと感じているとのことでした。

これから挑戦したいこと
M.Y:
「今後の目標を教えてください。」
泉谷さん:
「技術向上はもちろんですが、器以外のものにも挑戦してみたいです。」
工房静寛のコンセプトでもある植物との組み合わせにも興味があるそうで、
「花を飾るような大きなオブジェや、植物とのコラボレーションも面白そうですね。」
と笑顔で語ってくださいました。

最後に
M.Y:
「最後に、お客様へメッセージをお願いします。」
泉谷さん:
「ぜひ工房に来て、実際に作る工程を見ていただきたいです。一つひとつ丁寧に作られていることを知ると、器を見る目も変わると思います。」
さらに、
「漆器は修理や塗り直しをしながら長く使える器です。ぜひ大切に使っていただけたら嬉しいです。」
と話してくださいました。
今回のインタビューを通して、木地師という仕事が単に木を削るだけではなく、素材と向き合い、道具を工夫し、使う人のことまで考えながら作り上げる仕事であることを、実際に漆器を売る立場として改めて知ることができました。
工房静寛にお越しの際は、ぜひ木地挽きの工程にも注目してみてください。「今日は何を作っているのだろう?」「どの部分を削っているのだろう?」と眺めていると、一つの器が完成するまでにどれだけ多くの工程と工夫があるのかが見えてきます。完成品だけでなく、その背景にある職人の手仕事にも触れていただけると、山中漆器をより身近に感じていただけるかもしれません。